
2023年に公開された映画『月』。
原作は辺見庸による同名小説で、重度障害者殺傷事件をモチーフにした衝撃作です。
“人間の尊厳とは何か”“命の価値とは”というテーマに深く切り込んだ、決して軽く観られない問題作。
この記事では、あらすじ・登場人物紹介から、ラストまでの感想、そして原作との違いまでを丁寧にまとめます。
目次
基本情報
- 作品名:月
- 公開年:2023年
- 監督・脚本:石井裕也
- 原作:辺見庸『月』(文藝春秋)
- 出演:宮沢りえ、磯村勇斗、二階堂ふみ、オダギリジョー ほか
- 上映時間:128分
- ジャンル:ヒューマンドラマ・社会派
あらすじ
深い森の奥にある重度障害者施設。ここで新しく働くことになった堂島洋子(宮沢りえ)は“書けなくなった”元・有名作家だ。彼女を「師匠」と呼ぶ夫の昌平(オダギリジョー)と、ふたりで慎ましい暮らしを営んでいる。洋子は他の職員による入所者への心ない扱いや暴力を目の当たりにするが、それを訴えても聞き入れてはもらえない。そんな世の理不尽に誰よりも憤っているのは、さとくんだった。彼の中で増幅する正義感や使命感が、やがて怒りを伴う形で徐々に頭をもたげていく――。(公式サイトよりhttps://www.tsuki-cinema.com/#story)
原作との違い
原作の『月』は非常に抽象的かつ哲学的な文体で、「加害と被害」「愛と暴力」「生と死」の境界を問う作品。
映画ではその難解さをやや緩和し、登場人物たちの心理をより現実的に描写しています。
特に違うのは、
- 映画では堂島洋子を中心に据え、“一人の女性の心の崩壊”として描いている
- 原作よりも事件の「社会的背景」や「職場の圧力構造」を強調している
という点。
そのため、原作よりも「現実社会に存在する問題」として受け止めやすくなっています。
子どもと一緒に観られる?
結論から言うと、子どもにはおすすめできません。
描かれる内容は非常に重く、暴力的な描写や倫理的に難しいシーンもあります。
ただし、高校生以上で“命の意味”や“差別の構造”を考えたい人には強くおすすめできます。
観終わったあと、しばらく言葉を失うような深い作品です。
嘔吐恐怖症の方は観られる??
直接的嘔吐シーンはありませんが、重度の障害を抱える方の介護シーンの中では排泄物が出てくるシーンもあり、飲酒シーンも度々あります。
あまり嘔吐恐怖症の方にはおすすめできません。
こんな人におすすめ!
- 社会問題をテーマにした映画が好きな方
- 宮沢りえ、磯村勇斗、二階堂ふみなど実力派俳優の演技を堪能したい方
- 人間の「善と悪」「愛と憎しみ」を深く掘り下げる作品を観たい方
- 石井裕也監督の社会派作品が好きな方
- 原作『月』(辺見庸)の解釈を映画で確かめたい方
どこで観られる??
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ネタバレあり感想
『月』は、観る者の心を容赦なくえぐる作品です。
実際に起きた事件から着想を得ている原作の映画なので、当時の時間を知っている方も知らない方も考えさせられることがあるように感じました。
序盤は、障害者施設で働く人々の日常が静かに描かれます。
しかし、次第にその穏やかさが不穏に変わっていく。
入所者を“助けている側”のはずの職員が、時に差別的な発言をし、虐待のようなこともする、
心のどこかで「誰のための福祉なのか」を見失っていく。
宮沢りえ演じる堂島洋子は、病気の末障害を抱えた幼い息子を亡くした悲しみを抱えつつ生活のために山の中の重度障害者施設の職員となる。
様々な実態を目の当たりにし、次第に施設に入所している同じ生年月日の女性に自分を投影していく。
中盤、さとくん(磯村勇斗)との関係が深まり、彼の極端な思想に影響を受ける姿は衝撃的です。
「この人たちは、本当に幸せなんだろうか?」
「“生かす”ことは、いつも正しいのか?」
この問いが、観ている側にも突き刺さります。
ラストはさとくんが次々と”心のもたない”とされた人たちを手にかけていく当時ニュースで何度もみた、なんとも苦しいところで終わります。
わたしは入所者の母親役の高畑淳子さんがラストに泣き崩れるシーンを観て、苦しくなると同時に当時この事件に肯定的な意見が少なくなかったことを思い出しました。
ただただやり場のない余韻が漂う映画ですが、映画内の言葉で何度も出てくる”臭いものには蓋をする”ばかりではなく、考える時間になるかと思います。
まとめ
映画『月』は、観る人を選ぶ作品です。
けれど、そこに描かれているのは私たち誰もが抱える“心の闇”と“希望”の両方。
「自分は本当に優しい人間なのか?」
「誰かを救うとはどういうことか?」
そんな問いを突きつけ、答えの出ないまま観客の心に重く残ります。
宮沢りえさんの圧倒的な演技、磯村勇斗さんの狂気を秘めた静かな存在感、
そして石井裕也監督の容赦ないリアリズム。
2020年代の日本映画を代表する社会派ドラマとして、長く語り継がれる一本になるでしょう。
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