
2023年に公開された岩井俊二監督の最新作『キリエのうた』は、「歌」でしか会話できない少女が、人生の傷を抱えながら旅する物語。
主演は元BiSHのアイナ・ジ・エンドさん。彼女の圧倒的な歌声と、岩井監督らしい映像美が、静かに、でも確実に心を揺らす作品でした。
🚨この映画は東日本大震災を扱っており、地震のシーン、津波が来るまでのシーンがあります。
目次
🎬 映画基本情報
- 作品名:キリエのうた
- 公開年:2023年
- 監督・脚本・編集:岩井俊二
- 出演:アイナ・ジ・エンド、松村北斗(SixTONES)、黒木華、広瀬すず ほか
- ジャンル:音楽・ロードムービー・人間ドラマ
- 上映時間:179分(長尺)
🎤 あらすじ(ネタバレなし)
石巻、大阪、帯広、東京を舞台に、歌うことでしか“声”を出せない住所不定の路上ミュージシャン・キリエ、行方のわからなくなった婚約者を捜す青年・夏彦、傷ついた人々に寄り添う小学校教師・フミ、過去と名前を捨ててキリエのマネージャーとなる謎めいた女性・イッコら、降りかかる苦難に翻弄されながら出逢いと別れを繰り返す男女4人の13年間にわたる愛の物語を、切なくもドラマティックに描き出す。
👪 子どもと一緒に観られる?
この映画は179分と長く、また心理的・感情的な描写が多いため、小学校低学年以下のお子さんには少し難解です。
中高生以上で、「感性を刺激される芸術的な映画」を観たい人にはとてもおすすめ。
家族や友情、喪失と再生、心の傷など、“言葉にしづらいもの”を歌で描く世界観が伝わると思います。
⚠️嘔吐恐怖症の方は観られる??
直接的な嘔吐シーンはありません。
飲酒、妊娠するシーンはありますが、さほど体調が悪そうでもなく、あまり連想させるものはないかと思います。
🎯 こんな人におすすめ!
- 感情を“音楽と映像”で感じる映画が好きな人
- 岩井俊二監督作品のファン(特に『リリィ・シュシュ』『スワロウテイル』好き)
- アイナ・ジ・エンドさんの歌声に惹かれる人
- 自分の“声”を出せなかった経験がある人
- 観たあとも余韻が残る“体験型”映画を探している人
💬 感想(ネタバレあり)
▶ アイナ・ジ・エンドの存在感が圧巻
この映画は“演技”ではなく“存在そのもの”で語る映画。
アイナさんが話さないことで、彼女の“痛み”や“覚悟”が逆に際立ちます。
そして、彼女の歌声が響いた瞬間、言葉よりも深く伝わる感情に、鳥肌が立ちました。
まさに「声にならない想い」を、声ではなく歌で届ける。
そのコンセプトを完璧に体現できるのは、彼女しかいないと感じました。
▶︎キリエとルカ
どちらもアイナ・ジ・エンドさんが演じていて、正直始めはただでさえ時系列が前後する中で、姉妹とはいえ同じ方が演じると映画の全体背景がわからない頃はわかりづらく感じました。ただ後半に、ルカが警察に保護されたときの参考人?引受人?として夏彦に連絡がいき、ルカが高校生ぶりに再会し、キリエにそっくりな成長したルカの顔を見た時夏彦の涙が止まらなくなってしまうというシーンを観たとき、アイナさんか一人二役を演じた意味を強く感じました。
▶︎松村北斗さんが繊細に演じる夏彦から目が離せない
裕福な家庭で育ち医学部受験という重圧に苦しくなっていた頃、自分に好意を抱いている積極的なキリエに流される形で交際が始まり、のちにキリエは妊娠。家族の誰にも言えないまま、大阪の大学へ進学が決まる。将来のことも含めてその報告をキリエに電話している最中に東日本大震災が起き、キリエは行方不明に。その罪悪感と学生のうちに相手を妊娠させたことがバレなかったことの安堵感を抱えながら生きていて、その反面牧場で働いたり真織里の家庭教師をしたりして前を向いているように見えても成長したルカの姿にしゃがみこみ泣き出してしまう。そんな10代から30代までの様子を大袈裟ではなく繊細に演じられていて、釘付けになりました。
▶︎広瀬すずさん演じるイッコが切ない、、、
帯広で代々スナックを営んでいる家庭で女を使って生きている祖母と母を嫌悪して育ち、母親の再婚相手がお金を出してくれるということで、大学へ行くことになり家庭教師として夏彦、その妹というルカと出会います。必死に勉強しなんとか東京の大学に合格するものの母親が別れたことで大学へは行けず、北海道へ戻るとスナックを継ぐことになるからと真織里という名前を捨て、派手なウィッグをつけ一条逸子(イッコ)として結婚詐欺のようなことを繰り返して生活しくというのが結局本人が1番嫌悪していた生き方になってしまっており切なかったです。
▶︎それぞれのラストに想いを馳せる
警察から追われてラストは帯広時代の知り合い?に刺され倒れてしまったイッコは助かったのか、夏彦とルカの交流は続いているのか、ルカはデビューするのか、ルカが話せるようになる日はくるのかなど余韻があるからこそ、気になりついつい鑑賞後もそれぞれに想いを馳せてしまいました。
▶ 岩井俊二監督の“余白の美学”が冴える
物語は直線的ではありません。
時間軸もバラバラ、登場人物の背景も断片的にしか語られない。
でも、その“余白”があるからこそ、観る側が自分の感情や記憶と重ねられる構造になっています。
このあたりは、『リリィ・シュシュのすべて』や『花とアリス』など、岩井作品に慣れている人には“わかる”心地よさがあると思います。
▶ 誰の人生にも“キリエ”が必要なのかもしれない
この映画のキリエは、「主よ、憐れみたまえ」という意味を持つ祈りの歌。
登場人物たちはみな、誰にも言えない悲しみを抱えていて、
キリエの歌を通じて、やっと“心の奥の声”が浮かび上がる。
それは現実でも同じで、「誰かに話すことはできなくても、歌なら届く」ことがある――そんなメッセージを私は強く感じました。
📺オススメ鑑賞方法
2025年7月現在Netflix、Amazonプライムでは配信されていないので
ゲオレンタルがオススメです!
✅ 総評
⭐️⭐️⭐️⭐️☆(4.5/5.0)
物語の整合性やテンポを求める人には向かないかもしれません。
でも、「心を揺さぶる映画」「魂で受け取る映画」を探しているなら、
『キリエのうた』は、あなたの心の奥に響く一本になるはずです。
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